医療問題と民間の医学

脳ドックは必要か?

脳ドック(CTやMRIを使って脳の検査を行う事)を受診する事は、重要だという医師も居れば、近藤誠氏のように「必要ない」と言い切る医師もおり、素人では判断が付きにくいです。脳ドックの料金は高額なので、エビデンス(統計データ)の信憑性を冷静にリスク判断したい所です。

脳ドックは人間ドックの一種で、近年ではその必要性が盛んに語られています。MRI検査を行わないと、脳卒中や動脈破裂などの因子を発見できないからだというのが、必要論の理由です。

しかし脳ドックは「必要ない」と断言する医師も少なくありません。『医者に殺されない47の心得』などの著書で知られる、慶応大学医学部の近藤誠氏がその代表的存在です。近藤先生は同書の中で「脳ドックは害の方が大きいことがはっきりしています」などと、脳ドック不要論を語っています。その最大の理由は、脳の手術の難しさにあります。

例えば、脳ドックで動脈瘤が見つかったとして、手術で動脈瘤破裂は避けられたとしても、別の障害が残るリスクも高いそうです。破裂するかどうかも定かではない病気の手術で、半身不随や視力障害など別の問題が起きる可能性が高いとの事。

具体的なデータとして、信州大学の「未破裂動脈瘤のクリップ手術」という論文が上がっています。それによると、310人の被験者のうち、死亡が1人、まずまずの状態が17人、良好が30人、そしてexcellent(すばらしい)が262人という結果です。しかし「良好」という定義は『神経機能の欠落があるが自力で生活可能である』だそうで、視力障害や軽度の半身不随すら含まれているようです!「まずまず」に至っては、重い障害が残って自力生活が不可能な人、つまり死亡と紙一重だった人をカウントしていたのです!

つまり、実際には310人中48人(15.5%)もの被験者が、手術の副作用(失敗?)によって深刻な障害を負っていたという、驚きのエビデンスなのです。脳の動脈瘤手術が、如何にリスクが高いのかが分かります。

それに対して、脳ドックで見つかる動脈瘤(1センチ未満のもの)が、1年間に破裂する確率は0.05%だというのです。このデータは、欧米の53の施設が共同で、2600人以上の被験者を対象にした調査なので、信憑性は高いでしょう。

脳ドックで動脈瘤が見つかっても、1年以内に破裂するのはおよそ2000人に一人という確率。一方で手術を行えば、15%以上の確率で深刻な障害を負ってしまう・・・これではむしろ手術の方がハイリスクであり、だから脳ドックなど受ける必要は無いという、近藤先生の理論は非常に説得力があります。

脳ドックが推奨される理由は、脳外科医の雇用対策だと近藤先生は指摘します。日本には脳外科医が多すぎる(日本は5千人、米国は3200人、欧州各国は数百人)こと、世界最初の脳ドックは1988年に札幌で生まれたこと、などをその根拠として挙げています。これもまた、説得力の高いデータです。

近藤理論の問題点〜データが古い

しかし筆者は、即座に「脳ドックは必要ない」と結論付けるのは早計だと思っています。その理由は、近藤先生の不要論にも大きな問題があるからです。近藤先生は相当な過去のデータを元に語られている点、それに対して医療技術は日進月歩で進化しているからです。

前述の信州大学「未破裂動脈瘤のクリップ手術」は、2000年に発表された論文です。そこから10年以上経ち、動脈瘤に対する処置も、様々な薬剤やカテーテル治療、ロボットによる正確な手術など、当時より医療技術は大きく進歩しているのです。具体的なデータはありませんが、動脈瘤手術による後遺障害の起きる確率は、大きく低下しているはずです。

近藤先生は、旧態依然たる利権まみれの日本の医療業界に、大きな風穴を開けた素晴らしい功績の持ち主です。しかしドンキホーテとまでは言いませんが、近藤先生の語る理論もまた、データが古すぎて鵜呑みに出来ない面も生まれてきています。

脳ドックの費用は安くても3万円程度、細かな検査まで受ければ10万円位も必要で、しかも健康保険の対象外なので、全額実費となります。また脳ドックで使われるMRIは、放射線を使わないのでCTスキャンよりも安全だと語られていますが、これも正確ではなく、強い磁場なので身体に悪影響が出ると指摘する専門家も居ます。

果たして脳ドックは、その費用対効果、そして健康リスクに見合うものかどうか、筆者も結論は出せていません。仮に強引に結論を出したとしても、数年後には医療技術の進歩(あるいは新たなリスクの顕在化)により、答えが変わってくる可能性があるからです。最後は皆様自身で、色々なデータ・意見を見比べて、ご自分で判断するしか無いのです。

 

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